【企業法務】正社員と契約社員の「諸手当」の差にご用心

有期雇用と無期雇用の労働条件の不合理な相違が禁止され、違反した場合には労働者からの損害賠償請求が認められます。

平成25年施行の労働契約法の改正により、期限の定めのある労働契約と期限の定めのない労働契約の不合理な労働条件の相違が禁止されました(労働契約法20条)。

「同一労働同一賃金」を志向する条文として、改正の目玉とされていましたが、施行から5年が経過し、最高裁判例(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件)も登場し、日本郵政事件の地裁判決も登場したことで、いよいよ実務の傾向が固まってきました。

まず、労働契約法20条の条文を紹介しましょう。

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

有期雇用の契約社員と正社員との間の「手当」の差による賃金の差が不合理ではないかという文脈で、この条文は問題となります。

契約社員と正社員の皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の差は違法と判断がされました(ハマキョウレックス事件)。

ハマキョウレックス事件(最高裁平成30年6月1日判決)では、同一の業務を行うトラック運転手の有期雇用の契約社員と正社員との間の手当の差に関して、最高裁判所が手当の1つずつについて、具体的な判断をしました。

原告は、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給、退職金の差について問題としましたが、このうち皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の差は不合理であり、違法と判断され、企業側に対する損害賠償が認められました。

例えば、住宅手当では、最高裁判所は、有期雇用の契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されていないことを理由に、正社員とは住居費用の負担が異なることから、不合理ではないと判断しました。

一方、皆勤手当に関しては、実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであり、有期雇用契約の社員であっても、出勤する者を確保すること の必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではないとして、不合理であると判断しました。

この他、最高裁は、作業手当、給食手当、通勤手当の差に関しても、不合理であると判断しました。

正社員と定年退職後の再雇用された者との差に関しても、最高裁判決が出ています(長澤運輸事件)。

長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)では、正社員と定年後の再雇用の嘱託社員の能率給、職務給、精勤手当、住宅手当、家族手当の差が問題となりました。

精勤手当に関しては、先ほどの皆勤手当と同様に、嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を奨励する必要性に相違はないとして、その際が不合理であると判断されました。

しかし、その他の差異は合理的と判断しました。

まず、正社員に対し、「基本給、能率給、職務給」を支給しているのに対し、嘱託乗務員に対しては、「基本賃金、歩合給」を支給し、能率給及び職務給を支給していないことについては、試算した場合に「基本給、能率給、職務給」と「基本賃金、歩合給」の差は最大でも12パーセント程度であり、嘱託乗務員は老齢厚生年金を受け取ることができること(支給されないものには月額2万円の調整給が支給されること)から、その差は不合理とはいえないと判断されました。

また、住宅手当、家族手当に関しては、正社員には、嘱託乗務員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し、正社員に住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があること、先述した老齢厚生年金ないし調整給が存在することを理由に、差を合理的だと判断しました。

重要なのは、名目ではなく、支給基準から読み取れる賃金項目の趣旨です。

上記の判例からすると、有期雇用の契約社員と正社員との間で、皆勤を条件とする手当に関して、差を設けることは、定年後の嘱託社員であっても、不合理と判断される可能性が高いと言えます。

最高裁も長澤運輸事件で「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」と判示していますが、重要なのは手当の名前(名目)ではなく、支給基準から読み取れる賃金項目の趣旨です。

近年、大きく変化した分野だけに企業側の対応が遅れがちです。一度、賃金規定を見直してはいかがでしょうか。