【交通事故】自賠責保険の被害者請求とは何ですか?
被害者請求とは事故の被害者が直接加害者の自賠責保険に請求することをいいます
交通事故では、事故の加害者に対して、損害賠償請求をするのが原則ですが、事故の加害者だけではなく、事故の加害者の加入する自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)に対して、損害の補填を求めて保険金の請求することができます(自動車損害賠償責任保険法第16条)。
自賠責保険は、交通事故の損害のうち、傷害部分の損害に関しては最大120万円、後遺障害部分の損害に関しては最大4000万円、死亡事故の場合の損害に関しては最大3000万円を補填する保険で、法律上、強制加入の保険です(自動車損害賠償責任保険法第5条)。
ただし、自賠責保険だけでは、交通事故で生じるすべての損害をカバーできないため、通常のドライバーは、自動車保険(任意保険)にも加入しています。よくコマーシャルで保険会社が自動車保険の保険料の宣伝をしていますが、任意保険である自動車保険の宣伝です。
加害者に任意保険が付いていても、被害者が自賠責保険に直接請求する場合があります。
加害者側の任意保険会社は、事故が生じた場合には、一般に医療機関に対し治療費を直接支払い(これを「内払い」といいます。)、治療終了後に慰謝料を含めた示談をして示談金を支払うことが普通ですので、わざわざ被害者が加害者側の自賠責保険に被害者請求をして保険金を請求する必要があるのかという疑問を持たれるかもしれません。
しかし、相手方が任意保険会社を付けていたとしても、一定の条件の下では、被害者が直接自賠責保険会社に請求することが有利になる場合があります。
以下、その典型例を紹介します。
パターン① 後遺障害の等級の認定のために申請する場合
加害者の任意保険会社に対して、後遺障害を含んだ損害賠償請求がされた場合には、加害者の任意保険会社は被害者の後遺障害に関する資料(自賠責書式の診断書・診療報酬明細書、自賠責書式の後遺障害診断書など)を取り寄せて、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に送付し、後遺障害の等級を照会した上で、認定された等級に基づき損害賠償の交渉がされることになります。
加害者任意保険会社が主導して後遺障害認定手続きをするこの流れを「事前認定」と呼びます。
「事前認定」は、手間がかからない一方で、デメリットもあります。これは、加害者任意保険会社が資料を取り集めて認定を求めるため、被害者にとって有利な資料であっても必要資料とはなっていないものに関しては、加害者保険会社の担当者次第で提出されない場合が出てきてしまうのです。しかも、加害者任意保険会社は後遺障害等級が高くなればなるほど、損害賠償の金額が高額化するため、あえて高い後遺障害等級を取得するメリットもなありません。任意保険会社の担当者はいわば利益相反的立場にあるのです。
一方、自賠責保険に対して、被害者が自ら後遺障害の請求がされた場合には、被害者側が資料の収集を行うことになりますから、被害者側が十分な資料を集めた上で、請求することが可能です。このため、加害者に任意保険が付いていても、被害者が自賠責保険に直接請求する方が良いことがあります。
パターン② 被害者の過失が大きい場合
もう一つの典型的な自賠責保険の被害者請求の活用例が、被害者側の過失が大きい場合です。
被害者側に過失がある場合には、加害者は、被害者の過失部分を除いた金額についてのみ損害賠償義務を負います。
例えば、損害が傷害に関する100万円であるとしても、過失割合が4対6である場合には、被害者は60万円の損害賠償しか受けられないことになります。
しかし、自賠責保険に保険金を請求した場合には、事情は変わってきます。
自賠責保険は、上限金額が定められているものの(傷害に関する損害は120万円)、請求者の過失が7割未満の場合には、そもそも過失相殺をせずに、保険金を支払うこととされています。
自賠責保険の保険金の給付基準は、自賠責基準といい、特に休業損害や慰謝料が裁判基準(弁護士基準)よりも低いことが普通ですので、単純に100万円の保険金が下りるわけではありません。しかし、少なくとも、加害者任意保険会社から賠償を受けるよりも高額となるケースがあり、被害者の過失が大きい場合にも被害者が自賠責保険に直接請求する方法が活用されています。
愛知県弁護士会所属
愛知県半田市で相続・離婚・交通事故・債務整理・中小企業法務を主な業務内容として、知多半島地域を中心に弁護士活動を行っております。
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