生命保険金が遺産の2.7倍の事案で特別受益を否定する新たな裁判例が出されました(広島高等裁判所令和4年2月25日決定)。

特別受益とは、生前贈与等によって相続人が得た利益を遺産分割時に持ち戻し精算することを指します。

遺贈、生前贈与等によって、相続人が得た利益は、「特別受益」といい、遺産に持ち戻して再計算する対象となることがあります。

民法903条第1項では、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定されています。

簡単に説明すれば、遺産に「特別受益」分を加算した「みなし相続財産」で各自の相続分を計算し、「特別受益」を受けた相続人の相続分から「特別受益」を受けた金額を控除するというものです。

最高裁判例で、生命保険金が「特別受益」となり得ることが認められています

一般に、契約者が被相続人、被保険者が被相続人、受取人が相続人の場合の生命保険は、遺産の対象外とされています。

生命保険金を受け取る権利は、被相続人の死亡と同時に、直接的に受取人である相続人に移転するからです。

しかし、最高裁判所平成16年10月29日決定は、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」。

そして、その後の裁判例の集積により、実務的には生命保険金が遺産の1/2を超えると特別受益である可能性が高まると考えられています。

詳しくは、「【相続】相続人が生命保険金を受け取っている場合には注意が必要です(生命保険金と特別受益)。」をご参照ください。

生命保険金が遺産の2.7倍の事案で特別受益を否定する新たな裁判例が出されました(広島高等裁判所令和4年2月25日決定)。

今回、生命保険金が遺産の2.7倍の事案で特別受益を否定する新たな裁判例が出され、確定しました(広島高等裁判所令和4年2月25日決定)。

この事案は、被相続人に配偶者がいたもののの、子どもがいなかったため、被相続人の母と配偶者である妻が法定相続人となった事案です。

相続開始時の遺産の評価額は約770万円で、妻が死亡保険金2100万円を受け取った事案で、被相続人の母が死亡保険金が特別受益に該当すると主張しました。

裁判例は結論として、生命保険金の特別受益該当性を否定しました。裁判例は次のとおりの指摘をしています。

裁判所が考えている考慮要素。

公益財団法人Dの生活保障に関する調査(平成28年度速報版)によると、男性加入者が病気によって死亡した際に民間生命保険により支払われる生命保険金額の平均は、平成3年で2647万円、平成28年で1850万円であったという事実を認定した上で、①死亡保険金の額は、一般的な夫婦における夫を被保険者とする生命保険金の額と比較して、さほど高額なものとはいえない。

②被相続人と妻は、婚姻期間約20年、婚姻前を含めた同居期間約30年の夫婦であり、その間、妻は一貫して専業主婦で、子がなく、被相続人の収入以外に収入を得る手段を得ていなかった。

③生命保険は、妻との婚姻を機に死亡保険金の受取人が妻に変更されるとともに死亡保険金の金額を減額変更し、被相続人の手取り月額の給与から保険料として過大ではない1万4000円を毎月払い込んでいた。

よって、本件死亡保険金は、被相続人の死後、妻である相手方の生活を保障する趣旨のものであったと認められるところ、④相手方は現在54歳の借家住まいであり、本件死亡保険金により生活を保障すべき期間が相当長期間にわたることが見込まれる。

⑤母は、被相続人と長年別居し、生計を別にする母親であり、夫の遺産であった不動産に長女及び二女と共に暮らしている。

以上から、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情」がないと判断しました。

まとめ

生命保険金と特別受益の問題で、遺産の2.7倍の事案で特別受益を否定する新たな裁判例が出されたことには大きな意義があります。

また、本件では、介護等の「貢献の度合い」というよりは、生命保険金を掛けた趣旨、配偶者が現役世代で亡くなった場合の生命保険金の支給の実情、妻側と母側の生活見込みの違い等が結論に大きく影響を与えました。

この論点は、遺産と生命保険金の比率に注目されがちですが、本裁判例はその傾向に警鐘を鳴らすものといえます。

相談予約フォームは24時間受付中

半田知多総合法律事務所への相談予約は、お電話(0569-47-9630)だけでなく予約専用フォームからも可能です。

予約専用フォームは、パソコン、スマートフォン、タブレットから受け付けており、24時間いつでも送信可能ですので、便利です。

お問い合わせいただいた場合には、営業時間内にご希望の返信方法に合わせて、返信させていただきます。